不都合な真実:生え抜き社長はオワコンな時代到来

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キャプチャ[小川 修平:国内・外資投資銀行にて7年間投資銀行にて会社の買収売却(M&A)業務に関わる中で、多くビジネスや会社の実態を主に財務面から見てきました。その経験を活かし、わかりやすくビジネスや会社の見方を伝えます。株式会社UNLOCK DESIGN取締役。大分県生まれ。横浜育ち。子供3人]

 

日本の会社の特徴は長らく、終身雇用だと言われ、経営・管理職の人材も社内からの生え抜きが供給源となっていましたが、昨今事情は大きく変わりつつあります。先日、ソフトバンクの孫正義社長の実質的な後継者に、米国の実業家・ニケシュ・アローラ氏が指名されたニュースが話題になりました。それに対し、ホリエモンこと堀江貴文氏が「生え抜きとかいう概念が既にオワコン」とコメントをしたのが印象的です。

後継者が「社内にいるわけがない」という経営者(§1/2)

ある日本企業の人事担当者が海外拠点を巡回し、人事戦略を練っていたときのこと。東南アジア拠点の経営者のもとに赴いた際、経営者が高齢だったので後継者を社内の誰にするか決めてほしいと迫ったそうです。すると経営者本人より、「(後継者が)社内にいるわけがない」「当然外部から雇う」と拒絶されて面食らったというお話。

その経営者に言わせれば、部下はみな可愛いし、与えた役割に関しては優秀だが、経営者に必要なクリエイティビティをもっている人はいないでしょ? と。

このように、社内の役員から社長を選ぶことがオワコンという構図はいろんなキャリアのレベルで観察されるのではないでしょうか。例えば、平社員に求められるのは事務を効率的に処理する能力ですが、課長になるとそもそもその事務が必要なのか批判的に考える力が必要になり、部長になると最早事務に関する能力はどうでもよく、コミュニケーション能力やリーダーシップがメインになります。

役員になれば、今度は構想力や決断力が必要とされ、最後に社長になると、市場を創造するようなクリエイティビティが不可欠とかいきなり言われたりします。

みなそのことに薄々気づいてるし、誰も大きな声では言わないのかもしれないですが、今のポジションのタスクをこなすことが、必ずしも上のポジションで評価されるポイントとは限らないわけです。

生え抜き社長がオワコンなのは、すでに理論的に証明されていた!?(§2/2)

議論はあるところですが、実は組織において社内の人材を昇進させていくことの危険性は以前から指摘されていました。ローレンス・J・ピーター氏が提唱したピーターの法則と呼ばれるものです。

組織において優秀だと認められたものが昇進していくと、昇進はその人が優秀だと認められる限度まで、別の言い方をすれば無能になるところで昇進が止まります。その構造を組織全体に拡張すると組織はそれぞれのポジションにおいて無能な者にどんどん占められて行ってしまうというパラドックスです。

そして、それをモデル化したアレサンドロ・プルチーノ氏が導いた解決策も興味深いものです。彼のモデル化によれば、無能なものにポジションを占められない昇進パターンの一つはランダム昇進だったというオチです。

そういう意味で「成果主義でうちはだめになった」みたいな話を聞くと、完全な年功序列はランダム性が高く、昇進の仕組みとしてはある程度ピーターの法則を回避する機能があったのかと深読みしてしまいます。

それはさておき、成果主義がないと人間インセンティブが働かないですし、年功序列といったってその中で競争はあるわけで、程度の違いはあれ世間は全て成果主義です。下のポジションと上のポジションで求められるものが違うのなら、人事はどのような人を昇進させればいいのでしょうか?

冒頭の事例のとおり、外部からそういうスキルを持った人間を引っ張ってくるという選択肢が出てくるわけです。ピーターの法則が機能するのも、内部からの昇進という縛りがあるのがミソだと思います。

当初日本で生え抜きの昇進制度が機能していた背景としては①プロダクトライフサイクルが比較的に長かったこと、②株式の持ち合いやファミリー企業が多く、資本主義の論理(=株価(企業価値)の向上が絶対視される)がそこまで強くなかったこと、があげられると思います。
しかしいまや、ヒット商品の賞味期限は2年以内というのが普通になり、また株価の上昇などが経営目標として厳しく求められるようになっています。それに伴って、会社の価値を最大化すると考えられる人材の外部からの招へいを行ったソフトバンクのような人事も増えていくでしょうし、そのプレッシャーは会社組織の下部にまで影響を与えるようになるのではないでしょうか。