【東南アジア留学記】バンコクで鬱になり田舎の村の寺で療養した話#5 嫌々ボランティア始めたら目覚めた

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◇湯浅 陽代:京女。幼少時、ユダヤ人アフリカ民族楽器演奏者に弟子入り。アフリカの民族楽器はほぼ演奏可能。ガーナのダンスも習得済み。小中学校時代、イラン人とブラジル人より英語を学ぶ。大学入学後は、インドの民族衣装サリーを纏って通学するが、半年間全く友達ができず困る。現在タイ留学中。
◇短期集中連載『バンコクで鬱になり田舎の村の寺で療養した話』
現在タイ滞在5ヶ月目に入りましたが、実はこの期間のうちに鬱になりました。今回はどのように微笑みの国タイで沈み、そこから回復していったのかを書きます。

嫌々ボランティア始めたら目覚めた

その後数日間、イッタさんは私をバイクの後ろに乗せて、滝に、山にと村をあちこち案内してくれた。別に特別目的地へ着かずとも、バイクで走っているだけで幸せだった。舗装されていない道をガタガタ行くと、バナナの葉やマンゴスチンの木の枝が頭に当たる。国道に入ると、風と、空と赤土と木々の緑が全部混ざって私もその一部になったような感覚を得た。私の求めていたタイはこれだよ、と後部席で風を感じ、嬉しさを噛み締めた。しかし、イッタさんは、早歩き程度のスピードしか出さないので、追い越していくバイクが何台もこちらを振り返る。恥ずかしかったのでスピードを出せとリクエストすると今度は物凄いスピードで走り出す。極端にも程がある。

日本人が来ている、という噂を聞きつけ、皆が私に会いたいと寺に来た。バナナ農園を経営するおじさんは夜市に連れ出してくれたし、寺の僧侶とは、一緒に海へ、マングローブへ出かけた。村人の結婚式にも参加したし、道でおばちゃん達に会えば、「私の娘になって」ときつく抱きしめられた。いるだけで貴方には存在価値があるのよ、というメッセージを沢山受け、自信が戻った。

やる気がまったくない状態で、小学校にボランティアに行った

とうとう、小学校へ英語を教えに行く日がやってきた。正直私は子供にもボランティアにも嫌悪感しか抱かない人間だったので、最初は乗り気もやる気も一切無かった。特にボランティアに関しては綺麗事で独りよがりの行為とすら思っていた。小学校へ向かう途中、イッタさんに授業で一体何をするのか、私はどうすべきか聞けども、何とも答えにならない返答しか無いので余計気が抜けていた。

しかし一旦教室に入ると、私は、私に向けられる子供達のキラキラした瞳に圧倒された。その時「ちゃんと教えてあげなければ」という思いが急に降ってきた。はじめの5分はイッタさんのアシスタントをしていたが、どうも我慢できなくなって、その後授業の主導権を彼から奪い、彼を従えて授業をやり切った。

その後いくつか授業を受け持ったが、どのクラスでも私は快く迎え入れられ、それに応えるように全力で授業をした。授業ごとに改善点を彼に伝え次に反映した。授業の内容や構成にまで口を出す出しゃばり小娘の私に、彼はよく腹を立てなかったと思う。

一言添えておくが、彼が政府認定の英語教師であることは嘘ではなく、今まで多数の小学校に英語の授業を導入してきた、いわゆる偉い人である。それでも彼の英語は間違いだらけで授業構成もめちゃくちゃだった。以前タイの教育問題を扱った際に教師のレベルの低さの問題を学んだが、実際に目の当たりにすると非常に悔しかった。教師と生徒両方のやる気はあるのに、正しい知識とティーチングスキルがないのは非常に勿体ない。

そのようにしばらくの間授業をしていたが、1週間と少し過ぎたころ、私はバンコクへ帰ることを決めた。このころになると、人口数百人の小さな村では、普段は女芸人扱いの私でもアイドルになれた。小学校へ行けば私はたくさんの生徒に尊敬され、常に周りを取り囲まれた。別に私にスキルや経験的な価値はほぼないし、私が与えられることも英語が話せることの楽しさを伝えることにとどまるだけであるのに。

だからこそ、何もしなくても与えてもらえる、そんな居心地が良すぎる環境が逆に怖くなった。私はまだそんな崇高な人間ではない。このままこの村に居ても傲慢になるだけだと恐ろしくなったのと、私がこの村にくる目的だった「心の元気を取り戻す」が達成できたので、別れを告げることにした。

帰る前日、村の女性が最近出産したというので、イッタさんに同行し彼女の家に挨拶に行った。授乳の様子の見ていると、急に日本にいる自分の母親の顔と、彼女が常日頃説いていた「無条件の愛」という言葉が頭に浮かんだ。彼女が息子を何の見返りなしに愛するように、この村の人たちも私にその愛を与えてくれたのだと認識した瞬間、感謝の念が押し寄せ涙が止まらなかった。


バンコクで鬱になり田舎の村の寺で療養した話

Part1: ここでも普通になれない

Part2: 鬱、入りまーす

Part3:救世主、怪しいおっさん現る

Part4:たった一人の外国人の村人になった

Part6:バンコク帰還と判明したおっさんの正体